第3話 大空で 〜In The Sky
サウスタウンへと旅立つ当日…真はいつも通りに早朝ランニングを行い、
アパートに戻った後、すぐにあのジャケットを着て、荷物をまとめて出発した。
出かける前に航空券とパスポートの確認をしたのは言うまでもない。
国際空港までは、列車を乗り継いで結構かかる。
列車に何分も揺られるのは苦手だが…まぁ仕方が無い。
朝食は駅の構内で購入すればいいだろう…多少栄養バランスが崩れるか?
そんなことを考えながら、駅の方向へと歩いていく。
約10日間の旅となる。戻ったら戻ったらで登校日が戻った次の日という
(彼にとって)多少ハードスケジュールとなった。
登校日といえば…期末テストが全教科一括束になって返ってくるが…
今は考えるのはよそう……
数時間後……真は空を悠然と飛ぶ旅客機の中にいた。
彼が座っている席は、丁度窓の横だった。眼下には、真っ青な海が広がっている。
アメリカの空港に着くまで、10時間以上は掛かる。
それに、日本との時差が結構あるので、時差ボケがひどくなりそうだ。
そんな心配をしているのかしていないのか…
彼が飛行機の中でほぼずっとやっていることと言えば…
当然、勉強である…前の座席の折りたたみ式テーブルを下ろし、
カップを入れる穴を避けて、器用にレポート用紙に数学の解答を書いていく。
耳には耳栓がきっちりと入っている…流石に、この轟音には耐えられないのだろう。
……ただ単に取るのを忘れているだけなのかもしれないが。
彼の集中力は、地上でも空でも全く変わる様子は無く、
スチュワーデスが機内昼食を持ってきたことも、
隣の紳士に肩を叩かれて初めて気づいた、という有様である。
何かに取り付かれたように必死になってレポート用紙に何かを書き続けている様子は、
見ていて半分恐ろしくなるものだが、
今回の場合、この暑い真夏にジャケットを着たままというのが、
更に拍車を掛けているように見える。
結局いつもの通り、暗くなるまで勉強漬けであった。
日本ではまだ暗くなっていない時間ではあるが、窓の外は闇夜だった。
勉強を中断した時といえば、先程説明した昼食のときと、夕食の時である。
(当然、運ばれてきたことを隣の紳士に教えてもらって初めて気づいたのは言うまでもない)
今は、機内が暗く、本を見ていたら目を悪くしそうなので、勉強は止めていた。
両手を頭の後ろに回し、退屈そうな目で天井を見つめたり、
漆黒の闇と星空しか見えない窓の外を見たりしていた。
いつ着くんだか……そう思いつつ、腕時計で時間を確かめる。
ライト機能付きなので、暗いところでも時間が分かる。
アメリカに着いたら、現地の時間帯に時刻を合わさなければならないが…
寝るにも、この時刻(日本時間)では早すぎる…
かといって、アメリカに着いたら着いたで、日本時間では夜中だ。
そこからサウスタウンへ行く列車の中で寝るか……
そうこうしている内にまた外が明るくなった。
すぐさま問題集、レポート用紙を取り出し、勉強を開始した。
暇になったら勉強……彼にとっては、暇潰し同然なのだろうか…
彼の様子は、どのように周りから見られているのだろうか。(特に隣に座っている紳士には)
明るい間や食事中以外は、ずっと勉強をしている勤勉家に見えるのか、
それとも、耳栓をしたまま勉強をし、何を言われても気づかない無礼な者と見られているのか…
(おそらく、隣の紳士は後者である確率が高そうだが…)
しかし、時間が経つのは早いものである…
勉強を始めて、(真にとって)間もなく、シートベルト着用のランプが灯った。
解いている途中の問題があったのか、しぶしぶ鞄へと問題集とレポート用紙を直し、着陸するのを待つ。
…サウスタウンでは何が待っているのだろうな………
一応…KOFに参加しに来た訳だが…飛び入りで、しかもチームメイト無しじゃ辛いか…
開かれていなかったら観光だけして帰るか…
あくまでも、そこで開かれる予感がしただけだしな……
そんなことを考えていた真を、突如眠気が襲った。
外は昼ではあるが……日本時間では夜である。当然、眠くなってもおかしくはない。
予定通り……サウスタウン行きの列車の中で寝ますかぁ……
そう思いながら、真は大きな欠伸を一つした。