第2話 笑わぬ青年 〜A Boy Who Can't Smile〜


確かに、その青年は変わっていた。
朝の大通りをただ一人、露骨に人込みを避けるように歩いていく。
無表情のまま、つかつかと歩いていく。
シャツの上に迷彩柄のベストを着、右肩に鞄を背負って。

「…おはよう」

と、その青年に、後ろから一人、少女が声をかけた。
少しブロンド掛かった髪を、一部後頭部でヘアバンドでとめている。

「おう……」

青年は短く少女にこう返した後、先程と変わらず淡々と歩いていく。
少女も、彼の横に着き、同じスピードで歩を進める。

「昨日、コンピューター室で何やってたの?」

不意に少女が聞く。青年は少し驚いた表情をしたが、
すぐに元の表情に戻った。

「家に妙なフロッピーがあってな……」

「フロッピー……?」

「おーーい!!ユミー!!シンー!!」

背後から、甲高い女性の声が彼らを追ってきた。
二人は足を止めて、後ろを向いた。
ロングヘアーの少女と、それを追うように眼鏡を掛けた青年が、
こちらに向かって走ってきていた。

「おはようサナエ」

ユミはロングヘアーの少女に声を掛ける。シンは黙ったままだ。

「おいおい、僕には挨拶無しかよ……」

眼鏡の青年がユミに言う。

「ごめんごめん。フェイ君もおはよう」

彼女は明るく彼に返した。

「あれ?ソフィは………?」

サナエはさっき来た道を振り返る。
と、息を切らしながら、少女がこっちへ向かってきた。
後ろで髪の毛を一本にまとめ、左に鞄を持っている。

「二人共、速いよー」

「ゴメン、この二人が見えたから、つい……」

「まったく……人の姿にも目ざとけりゃ、食いモンにも目ざとい…だから…」

「だから何ですって〜?」

サナエはフェイの皮肉に即反応し、彼の耳を思いっきり引っ張った。

「イテッ、いてぇっての!!」

喧嘩する二人を笑いながらも止めようとするユミ、ソフィに対し、
シンは無表情のまま、二人を傍観したままである。
まるで、何もかもつまらないような顔をして。

「朝っぱらから夫婦喧嘩は止めろ……」

と、横から声がかかった。その方向を見る5人。
そこには、金髪の青年が立っていた。眠そうな眼をしながら。

「あ……ジェイク君。おはよ……」

ソフィは彼に挨拶をする。

「油売ってたら、遅れるぞ……」

彼はそう言って、歩き始めた。追い抜き様にシンを軽く睨み付けてから。
対するシンは別に睨み返すこともせず、さっきと変わらぬ表情のまま、
彼が追い抜いたのを確認後、すぐにゆっくりと歩き始めた。

「あ、待って……」

ユミの言葉を皮切りに、全員が歩き始めた。
これから、この町に何が起きるかも知らずに。


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