第9話 拘束 〜Restraint〜
「うわぁぁぁぁぁ!!」
半ば強引に、間髪入れずに、フォールは相手を剣で突きたてる。
剣と剣が打ち合う毎に、衝撃がもろに腕に伝わってくる。
しびれをこらえ、それでも相手に剣をたてた。
「うぬっ……!!」
海賊の方は、フォールの剣を受け止めるだけで精一杯のようだ。
更に剣を振るい、攻勢を維持するフォール。
だが、あまりに違いすぎるものがあった………
勢いで優勢だったフォールだが、だんだん剣の振るいのキレが悪くなってきた。
振り下ろすスピードが、先程より落ちている……
それを確認したのか、それとも肌で感じ取ったか、
海賊はだんだん冷静になり、守りから攻めへと移行し始めた。
自らの体格を活かし、一撃一撃に思いっきり力を入れて振り下ろす。
その顔には、余裕の笑みさえはっきりと表れていた。
「くっ……」
数分前と状況が完全に逆転してしまった。
体力と腕っ節………これがあまりにも違いすぎていた。
剣を伝わって届く衝撃が、攻めていた時より数倍に跳ね上がっていた。
「おらっ!! どうしたどうした!!」
海賊は攻撃のペースを速めていく。
ただでさえ急激に強くなった衝撃が連続で来るため、
まるで、腕の関節が外れそうになる。
ついに、衝撃に耐えられず、フォールは剣を下ろしてしまった。
待っていたかのように、海賊はニヤリと笑う。
「じゃあな!!」
剣を振り上げたその一瞬をフォールは逃さなかった。
と言うよりは、体が勝手に動いたと言った方が正確か。
右手を前方に翳し、掌から炎の塊を数発相手に放つ。
この至近距離だ。全弾、相手の顔に直撃した。
「うおっ……!?」
予想外の攻撃に、海賊は顔を押さえ込んで倒れた。
この距離のため、炎の威力も相当なものだったようだ。
すぐさま、相手が落とした剣を取れないような所へ払う。
だが、まだ気は抜けなかった。
「おい!! 何かあったか!!」
……悪い予想というのは、当たってしまうものである。
まだ姿は見えてはいないものの、足音でこっちに向かっていることは明白である。
痺れる腕を奮い立たせ、もう一度剣を構える。
………先手必勝……
そう思ったのかどうかは分からない。
足音のする方向を即座に判断し、フォールは倉庫を飛び出した。
判断は正しかった。予想通り、相手が来る方向は当たっていた。
が、誤算があった。……敵は複数だったのだ。
しかし、運も見放してはいなかったようだ……廊下が都合よく狭い。
これなら、一応一対一で戦うことは出来る…後ろから敵が来なかったらの話だが。
兎も角、勢いのまま、相手に剣を振り下ろした。
相手も剣を構え、剣同士がぶつかり合い、鍔迫り合いの状態になった。
相手の後ろに居た海賊も、迂闊に攻撃に参加することはできない。
とりあえず、読み合いの状態には持ち込んだ……
後はこの状況をどう打破していくかだけ……そう思った時だった。
「その剣を……降ろしな…」
女性の声がした……と同時に、フォールの首筋に冷たいものが触れる。
すぐにそれが何なのか、彼には分かってしまった…サーベルだ。
仕方なく、剣を降ろし、後ろを見た……
海賊帽を被り、赤い長髪の女性が鋭い目でこちらを睨み付けていた。
「この小僧……!!」
「止めな!!」
フォールに剣を振り下ろそうとした子分を怒鳴りつける。
女性ではあるが、相当の迫力である。
怒鳴られた子分どころか、フォールまで凍りついてしまった。
女性は、今度はフォールの方に目を移す。彼の鼓動は自然に高まった。
「……よくもやってくれたわねぇ」
倉庫の方を見て、その女性は答える。
まだそこには、炎を受けて倒れた海賊が顔を抑えて倒れこんでいた。
「勇気に免じて……命を取る事だけは許してやるよ……来な…」
その言葉を聞いて、彼は内心ホッとした。
だが、これからこの海賊達にこき使われることに成ってしまうのだろうか…
それとも………いや、止めよう……考えたくもない。
「あ、そうそう……」
フォールを連れて行こうとして、彼女は立ち止まった。
「そこに隠れている密航者……あんたも命は取らないから……
この子に感謝しなよ……」