第10話 更なる危機 〜Another Crisis Comes〜
あの女海賊に連れて行かれたあと、順を追えばこうだ。
まず、海賊のボス……つまり、船長の元に連れて行かれた。
(その際、ヴィーツはヴィーツで別の所に連れて行かれてしまった)
殺されずには済んだ……それどころか誉められた訳だが。
小僧のクセに見上げた奴だ、とかなんとか言われ、
その次には子分を叱り付けていた。
で、その後は……
「おとなしくしときな」
そう言って、あの女海賊は勢いよくドアを閉めた。
部屋の中には、両腕を後ろに回され更にその腕を縛られて
座っているフォールがいた。
武器である形見の剣を取られ、倉庫に置いてきてしまった
荷物も既に取られ、おまけに閉じ込められ……
泣きっ面に蜂もいいところである。
「……はぁーっ」
天井を向いて、大きくため息をついた後、
その目は部屋中を物色し始めていた。
おそらくはここは四方八方から奪ってきた品々を収めている倉庫…
なんか切れる物はと……
「やりましたねー船長。で、空き部屋に閉じ込めた奴らは何処で下ろすんで?」
「あの船の目的地の近くに船ごと離しとけ」
「もう一つ聞きたいんですが……何故あの小僧だけ別室で?」
意気揚々とマストを広げ、海賊船は海の上を進んでいた。
操縦室には、船長とオレンジのバンダナをした船員が問答を繰り広げ、
女海賊が隅の椅子に座って黙ってその問答を聞いていた。
「俺らの仲間の一人に火傷を負わせ、また違う奴と互角に戦ったってだけで、
仲間に加えるってんですか?」
「なら、あいつとやってみるか……?」
沈黙が流れる。船長の目つき、先程の答えの低さ、
全てが船員に圧し掛かり、額から汗が滲み出る。
「やめといた方が身のためよ。
ロステルは一度決めたら、滅多に曲げないからねぇ」
「余計な事を言うな、フレイ」
「す、すいやせんでした……」
そう言って船員が操縦室を出ようとしたその時だった。
「船長ー!!船長ー!!」
「一体何よ!!」
マストの見張り台からの呼び掛けに、ロステルの代わりに、
フレイが窓から首だけを出して答える。
「前方の水面に巨大な影が見えます!!」
「影……?」
「距離は?」
「その影との距離は!!?」
ロステルの質問をフレイが見張り台へと届ける。
「おそらく、500〜600mです!!」
双眼鏡を見ながらマストの船員が叫んだ。
「ちっ……」
ロステルは舌打ちをする。
まだ貨物船から物品をこっちの船に移している最中だ。
完全にタイミングが悪い。
「影」の正体が全く掴めていないが、引き上げた方が良さそうだ。
「は、早く発進して下さい!!影が猛スピードでこっちへ来ます!!」
「何だと!?」
せめて通り過ぎてくれと願った途端にこれだった。
ヤキが回ったか?
「荷物の積み上げは後だ!! 大砲の用意をしろー!!」
舵を離れ、ロステルは叫んだ。
見張り台にいた船員は縄梯子を滑り降り、
またある船員は突然の船長の大声に荷物を取り落とし、
慌しく甲板の上を駆け回りだした。