第11話 乱入者 〜Intruder〜


一方、こっちはこっちで、
何やら騒がしいのは大きな貨物を運んでいるせいだからと勝手に決め付け、
縄を切る道具はないのかと未だに目で倉庫を物色していた。
自分だけ隔離されて閉じ込められているにも拘らず、
そんなことは一切気にしてはいないかの様子で。
(実際は、心の片隅で気にはしているようだが…)
この倉庫、実際には結構広いのであろうが、
木箱がどかっと部屋中に積まれ、実際はかなり狭く感じる。
そして、ドアと反対側の壁には、何故か丸い小窓がある。
フォールが立ったときの顔より高い位置にその窓はあった。
ガラスの直径は彼の顔の2倍くらいのようだ。
ここから見えるのは一つだけであるが、
おそらく木箱をどかせたらまだ幾つかあるのだろう。
木箱に背中を……正確には背中に回され縛られた両腕を押し付け、
ゆっくりと立ち上がる……

そこを狙っていたかのように、大きな揺れが彼を襲った。

「う、うわっ!?」

中途半端に立ち上がった状態からバランスを崩すどころか、
突発的な揺れのおかげで真横へと吹っ飛び、
ドアのそばに置いてあった木箱に頭をしこたまぶつけた。
同時に、積まれていた木箱が幾つもけたたましい音をたてて崩れる。
幸い自分の上に木箱は落ちてこず、
ほとんどは自らが吹っ飛ばされた方向と同じ方向へと落ちた様だ。
それどころか、床が窓の方向を上にしてだんだん傾いてきた。
つまり、船自体が何かしらの力で斜めになっているということだ。

……今度は一体何が起こったんだ?

それはほどなくして、ある意味最悪な方法で分かった。
(というよりは理解させられたという方が幾分か正しい)
突然小窓をぶち破って白いツタのようなものが侵入してきた。

「うわぁぁぁぁ!!」

思わずその場に伏せて大声で叫ぶ。
その白いツタはフォールの約1m手前で止まった。
どうやら窓につっかえたようだ。
高鳴る心臓を押さえつつ、今起こっている状況を確認する。
周りの木箱は揺れの勢いで崩れていて、
目の前には「吸盤の付いた」白いツタ……
ということは、巨大なイカに襲われたのか…この船は?

彼の1m手前で、イカの足は何かを探すように彷徨っていた。
小窓に足がつっかえているのだから、
イカ全体の大きさは相当なものなのだろう。
が、そんなことを本人が考える余裕など全くなく、
ただひたすらこっちへ来るなと祈るしかなかった。
窓の周りの壁がギシギシと嫌な音を立て、彼の不安を助長する。
ふとフォールは視線を「ツタ」の下へと落とす……
そこにあったのは大きなガラスの破片……

もう一度視線を「ツタ」へと戻す。
「ツタ」は先程と同様に、自らが動ける範囲の中で
行ったり来たりを繰り返している。
「ツタ」を凝視し、タイミングを見計らいつつ、
木箱に背を押し付けて、揺れの中やっとこさ立ちあがった。
……窓の所で「ツタ」が壁に沿うように90度折れ曲がる。

……今だ!!

精一杯に足を伸ばし、ガラス片を引き寄せる。
そして木箱にガラスを縦に押し付け、
更にそのガラスに縄を慎重かつ力をいれて押し付け、
ガラスをナイフ代わりにして縄を切っていく。
ガラスで腕を切らないように気を配り、
「ツタ」の動きに気を配り、
ゆっくりと両腕を動かす……

何分かかったか分からない。
とても長い時間だったのかも分からない……

切れた……!!

そう感じた瞬間に自由になった両腕を軸に立ち上がり、
すぐさま何かにとり憑かれたように行動を起こす。
手頃な木箱を持ち、それをドアに力いっぱいにぶつける。
木製のドア故に壊すのにそう時間はかからなかった。
締めに用済みになった木箱を「ツタ」の方へと放り投げ、
外へと駆け出した。


<<第10話へ  戻る  第12話へ>>