第7話 同乗者 〜Fellow passenger〜


いつの間にか眠っていた……
起きて、密航したことに気がつくのに数秒を要した。
密航するためにここに入ったことさえ忘れていた…
とりあえず、船に潜入することには成功したらしい。
問題はこの後…このまま港まで箱の中に入っているか…
ここから出て乗客になりすますか……どちらにしろ、危険だ。
そもそも密航すること自体が危険ではあるのだが…

ふと、蓋からうっすらと光が差し込んでいるのが見えた。
一旦外へ出てみよう……そう思って、蓋を慎重に押し上げた。
少し開いた隙間からそっと周りの様子を伺う……どうやら倉庫のようである。
倉庫の中は薄暗く、なんとか木箱などの位置が確認できるくらいである。
誰も居ないみたいだ………そう確認し、体を木箱から出した…

「ありゃ?同乗者?」

突然後ろから声が聞こえた。ビクッとして、後ろを振り返るフォール。
そこには革の帽子を被った青年が、木箱の上であぐらをかいて座っていた。

「そんなにビビらなくても大丈夫。俺も密航者だ」

船員じゃなかったんだ……フォールはほっとして、改めて木箱から脱出した。

「あ、言い忘れてたな…俺の名はヴィーツ。ヴィーツ=ノグガルド」

「……フォール=イスカンダル…です」

「んなにかしこまらなくても良いって」

ヴィーツと名乗る青年は木箱から飛び降りた。

「それにしても……お前、何歳だ?」

「13歳です」

「13!? へぇー。そんな年で旅とはねぇ……」

ヴィーツはフォールをまじまじと見つめる…そして、あることに気が付いた。

「しっかし、えらく服が高そうに見えるけど…もしかして、良家の出身?」

う……フォールは口ごもってしまった。……やっぱり、あの町で着替えるべきだったか…
仕方が無い……話すか…今までのこと…




「…良家は良家なりに問題があるって訳か…
 俺は権力振るっている奴しか見たことねーからなぁ…」

ヴィーツは手を頭の後ろに伸ばし、木箱に背をもたれながら座って、こう言った。
フォールは何も言わずに、ヴィーツの2m横で木箱に持たれて立っている。

「元気出しなって。自由を手に入れたんだろ? 自由をさ」

自由……その言葉がフォールの胸に響いた。

「今ある自由を楽しめって、ほれ!」

ヴィーツはフォールに何かを投げた。受け取るフォール。
ヴィーツが投げたものは……リンゴだった。

「ちょ、ちょっとこれって……積み荷じゃ…」

「気にしない気にしない。金の節約にもなるだろ」

フォールの慌て様に、ヴィーツは一向に動じず、自らもリンゴに噛り付く。
フォールは何もせず、リンゴを見つめ続ける……いいのか?食べても…… 

そのとき、船体が異様にグラグラと揺れた。フォールは思わずリンゴを落としてしまった。

「な、何だぁ!?」

ヴィーツの素っ頓狂な声が室内に響く。波による揺れではない…それは確かだった。
上から、バラバラと足音が聞こえる……何か重大なことがこの船に起こっている。


けれど…一体何が……?


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