第6話 密航 〜Smuggling〜
レンガ敷きの街道に沿って歩いて30分くらいが経った。
ようやく街に辿り着いた。とても賑やかな港町だ。
この街を通り抜けて旅を続けても良いが、フォルセナ兵に追われることを考えれば、
ここから船に乗って海を渡った方が安全だろう…おそらくは。
一見あてもなく逃げる旅には見えるのだが、あてが無い訳でも無かった。
父が生きていた時に、武術を教えてくれた方…
フォールから言えば、師匠なる方が住んでいる町。
彼がいてくれたからこそ、先程の蜂に対処できたと言っても良い。
両親が亡くなってからは、あの大臣に辞めさせられて、
今住んでいる町へと移った…本人からすれば故郷らしいので、帰ったということになるのだろうか。
あてといえば、もう一箇所ある……フォルセナの同盟国であるアルテナだ。
その国の女王とは会ったことがあるので、匿ってはくれるであろう。
距離的に言えば、アルテナの方がかなり遠いのではあるが…
しかし、船に乗って海を渡る……といっても、旅費は限られている。
船代に旅費を回すよりは、食料調達や宿泊代のほうに回しておきたい。
野宿すれば、宿泊代はタダだが……それを何日も続けるわけにはいかないだろう…
ではどうやって船に乗るのか……当然であるが……
密航である……
見つかったら戻される、では済まないことは分かっている…
が、フォルセナから足取りを分からなくするためにはこうするしかない。
陸路は陸路で目撃される確率は高いだろう……
成功すればの話ではあるが、足跡を消すには…というより、時間稼ぎにはなるかもしれない。
それ以前にこの格好では(平民の中では)目立つ…でも、今はこれ以外に服は無い。
しばらくはこの服装で旅を続けるより他はないか……
あまり人通りの無い所を通って、フォールは港の方へ向かった。
人々の声に混じって、海鳥の鳴き声も聞こえてくる。
海鳥の声を聞くなんて、何年ぶりだろうか……
それ以前に、両親が亡くなってから、数えるほどしか城の外に出ていない。
ほとんど城に閉じ込められていたと言っても過言ではなかった。
さて、港が見えてきた。何隻もの船が止められており、
船に乗せる…あるいは乗せられていたと思われる貨物が所狭しと並べられている。
どうやって船に侵入するのが安全だろうか…陳列された木箱をみて考える…
やはり……木箱の中に潜む…のが一番てっとり早いか…?
この考えはすぐには出たものの、木箱の数があまりにも多く、
どの箱が今から船に乗せられるのかどうかが判別しにくい…
下手に木箱に入って、それがこの街に運ばれてきたものだとしたら大変だ。
見つけた相手が、自分を他の大陸から密航してきた者と勘違いしてくれれば助かるかもしれないが…
それは期待してもまず無理であろう……(それ以前に、この服装で判断される危険性もある)
兎も角…どれが船に積み込まれるか、確かめるのは必須だ…
フォールは港全体を見回してみた…と、今まさに木箱が積み込まれようとしている船が目に入った。
まだ積むべき木箱は結構あるようだ…彼はその方向へ、ゆっくりと歩を進める。
作業音が結構やかましいので、足音はまず聞こえないだろう。
後はこの人が多い中、目立たないかだが……それはひとまず忘れることにした。
今から搬入されるであろう木箱の山にそっと近づいていく…
一歩一歩近づく毎に、心臓の音も高まっていく。
気付くな…気付くな………脳内でこの言葉だけがリピートされていく。
そっと木箱の陰に隠れ、様子を伺った。船員が後ろを向いた瞬間、一気に目的の木箱の山へと歩み寄った。
そして、蓋が釘で打ち付けられていない木箱を探す………あった!!
一瞬周りを確認した後、蓋を開けた…が、
「こら小僧!!いたずらすんな!!」
後ろから怒号が飛んできた。後ろを見ると見るからに体躯のいい男が立っている。
どうやら、ただ単に何かを盗みに来た子供と勘違いしたようだ。
急いでその場を離れ、一旦様子を伺うことにした。
先程と違う木箱の陰に潜み、様子を伺った。
さっきの男は上司か誰かに呼ばれたのか、その場から姿を消していた。
木箱を船へと運んでいる男達は、何事も無かったかのように仕事を続けている。
と、船員達が全員木箱の山から目を離した…
見つかったらその時だ…今はあの木箱に入る事だけを考えよう…
そう思って、隙を見て一気に駆け出し、そのままの勢いで木箱の蓋を開け、中に入って蓋を閉じ、息を潜めた。
その後、何を考えたのか、全く覚えていない……
ただ、入った後、目を瞑って、耳を塞いで、縮こまっていたことだけしか記憶に無かった。