第5話 街道 〜Highter〜


しばらく歩き続けていると、足元の道が、土からレンガ敷きへと変わった。
どうやら、街道へと出たようである。これに沿っていけば、町が見えてくるだろう。
とりあえず、道に迷う、という心配は要らなくなった。
後は、何事も無く町に辿り着く…という事だけだ。
この街道でも、やはりラビは良く見かける。もう彼等が活動している時間帯であるので、
良く見かけると言えば当然なのであるが…
ラビ達はフォールに近づく様子など全く見せず、複数で固まって辺りを飛び跳ねていた。
何か食べ物でも探しているのだろうか…主に草食と聞いているが…
無理に首を突っ込む必要は無い…町を目指そう……

視線をラビから離そうとした直前、ラビ達は何かに気づき、一目散に逃げ出した。
逃げる方向は、フォールが来た方向とほぼ正反対の方だ。
何だ……?と思いつつも、正面を向きかえった途端に理由が判明した。
蜂だった…人の上半身ほどもある大きな蜂である。
性格はとても凶暴で、毎年何人かは刺されてショック死をするほどだ。
当然、ラビ程度の小動物も彼等は食料としてしまう。
兎にも角にも…一難去って、また一難…としか言いようが無い。

フォールはいつでも剣が抜くことができるように右手を剣に回した。
1…2…3匹か……まだほかにもいるかもしれない。
しだいに羽が擦れ合う音が大きくなってくる…同時に、フォールの鼓動も高まっていく。
来るな…来るな……と思っても、思い通りには行かないものである。
フォールとの間合いが5m辺りを切った途端、猛スピードでこちらに向かってきた。
く、来るな……!!頭の中でそう言葉を発しつつ、フォールは蜂に向かって駆け出した。
そして、すれ違い様に右手で剣を抜き、そのまま切りつけた。
「くっ………!!」
蜂の羽がフォールの頬をかすめた……尻についている毒針よりかは数倍ましなのではあるが…
しかし、手応えはあった……と同時に、初めて意図的に生き物を殺してしまった、という考えが脳裏に過ぎる。
たが、斬ったのはあくまでも1匹だけだ…まだ2匹残っている。
すぐに後ろを振り返った。残す2匹の蜂は彼から多少距離を置いて、
こちらへとUターンするところであった。

またすれ違い様に斬りつけるのは危険か……フォールはそう思い、剣から右手を離し、前方へと翳した。
魔法……一応ではあるが、攻撃魔法は幾つか使うことができる。
単純な魔法しか使えないものの…あの蜂にダメージを与えることはできるだろう…
ここ何年も使っていないため、不安ではあるのだが…
「…当たってくれよ……!!」
その不安を振りのけるように、フォールは右手から炎の玉を数個放った。
炎は真っ直ぐに蜂に向かって飛んでいき、命中した…2匹共にだ。
2匹ともよろめき、1匹は一端地面に落ちた。
しかし、2匹とも体勢を立て直し、何事も無かったかのようにその場をホバリングし始めた。
反射的に、すぐに飛んできても良いように構えた…
しかし、2匹ともそれ以上の攻撃をしようとはせず、あさっての方向へと飛び去っていった。

ふぅ…ため息とともに、フォールはその場にへたり込んでしまった。
魔法を久しぶりに使用したために、魔力の加減が分からなかった。
必要以上に魔力を使ってしまったのは言うまでも無かった。
……へたり込んでいる場合で無い…すぐに気を取り直して立ち上がり、進むべき方向へと歩き出した。
しばらくはこんな災難が続くのだろうか…そう思うと、足の進みが遅くなっていく。
死ぬよりはましか…ふっと、軽くこんなことを思ってしまった。
すぐに思ったことを忘れ、歩き出した。
…何が起こったとしても……希望は少しでも持っておこう……そう考え直しながら。


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