第1話 雨降り… 〜In The Rain…〜


西暦2000年7月……


いつだったろうか 火事で親を亡くしたのは
いつだったろうか 右腕に大火傷を負ったのは
いつだったろうか 右手で炎が操れると気付いたのは
いつだったろうか 友をかばったのは…

こんなことばかり考えていた。ただそれだけを考えて歩いていた。
人通りの多い歩道をとぼとぼと…足元を見ながら…天を仰ぎながら…
下校途中の高校生の中、浮いて見える青年…沢野真(さわのしん)は、
右肩にショルダーバックを背負い、駅へ向かう最中であった。
何気なく左腕に付けている腕時計を見て時刻を確かめる…午後3時半…
期末テスト1週間前を切っており、ほとんどの部活は休止中である。
だから、こんな時間であるが、下校中の生徒は多い…
が、当の本人にとって、そんなことはどうでも良かった…

その時、真の首筋に何かが当たった。立ち止まって空を見上げる。
すると今度は、それが右頬に落ちてきた。
しだいに、それの落ちる個数が多くなり、感覚が狭くなっていく…

「雨か……」

…雨はどんどん強くなっていく。
比例して、傘を差していない通行人の歩行スピードも上がっていく。
そんな雨など全く気にせず…ついでに言えば、
走りながら雨を罵倒する学生の声や、通行人の視線もろくすっぽ気にしないで、
土砂降りの雨の中、空を見上げながら突っ立っていた。

いつだったろうか 炎を誤って喧嘩に使った日は
いつだったろうか 誰もかも避けるようになったのは
いつだったろうか 自分と…草薙京…姿形が似ていると思ったのは
いつだったろうか こんな風に雨でも傘を差さなくなったのは

頭の中を、またこのような文章が駆け巡る。
誰かに答えを聞くわけでなく……だからといって、自分で答えを出すわけでもなく…

いつだったろうか 炎を使ったスタイルを作り上げたのは
いつだったろうか 本当に一人になったと感じたのは
いつだったろうか 笑わなくなった日は…


………笑顔が消えた日は


そこで思考を断ち切った。何も考えずに、ひたすら雨に打たれ続けた。
「雨の会話」を聞いているのは、多分自分だけであろう…
ふと視線を横にやった。その時…あるものが目に止まった。
真が立っていたのは、雑貨屋…というより、骨董品屋の前…
その店の壁に貼ってあるポスター…「The King Of Fighters '97 開催…」
The King Of Fighters…一般的に「KOF」と呼ばれる世界規模の格闘大会。
様々な拳法の格闘家が3人一組でチームを結成し、頂点を争う。
その格闘家の中に、自分と似ている男…草薙京も入っている。
自分と同じく炎を操る格闘スタイルで、並居る強豪達と拳を交わした。
しかし、98年は開催された記憶が真にはあったが、
去年…99年に開催された、ということを耳にした事は無かった。

真の脳裏に、テレビで見たKOFの試合の様子が甦ってきた。
京以外に、もう一人注目した格闘家も……
赤いキャップがトレードマーク。アメリカのサウスタウンという町のヒーロー…
その男の名は、テリー=ボガード。KOFでは、毎回優勝争いに食い込んでいた。

……サウスタウン

この町の名前が、頭から離れなくなった。
それにたまらなくなったのではないが、真はようやく歩き始めた。
何と無く、今年のKOFはここで開かれる気がした。
行ってみるか……サウスタウンに…あの男…草薙京も多分来る…
……飛び入り参加…チームメイトはいないが、それも良いかもしれない…
歩きながら、右の手のひらを見つめた。
火傷を隠すために、黒いオープンフィンガーのグローブをした右手。
グローブの下から、あの火事の火傷が少し見えていた…

「何処まで通用するか試してやる…俺の炎がな…」

そう真は呟いた。そんな彼の、半分気まぐれの決意を知ってか知らずか、
雨は弱まる気配など全く無く降り続けていた…


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