Prologue
暗黒の海を、一隻の貨物船が航海していた。
何処へ行くかは、この船の船員しか知らない。
波の音しか聞こえない海をこの船はゆっくりと進んでいた。
一見何事もないように・・・
突然、船が慌しくなった。
船内から、幾人の人々が甲板へと出てきた。
更に、船から、幾つもの光が、夜の闇を切り裂いていく。
「くそっ!どうやって逃げた!早く探せ!!」
レンズの丸いサングラスをかけた男が叫ぶ。
人一倍焦っているようだ。
「麻酔銃はないか!!まだそれほど遠くへは行っていないはずだ!!」
また、この男が叫ぶ。
船からのライトはまだ、逃げたものを捕らえていないらしい。
「・・・・・・・いました!!」
突如、船員の一人が叫ぶ。
「何処だ!!」
男は声のした方へと走り出し、沖を見た。
光は、何か小さい影を映し出している。
「・・・・・・あそこまで逃げたか!」
男がそう叫んだ途端だった・・・・
ダーン!!
一発の銃声が鳴り響いた。一瞬船全体が静まり返った。
そして、あの男の声が、甲板全体に鳴り響いた。
「馬鹿者ぉ!あれが何だかわかっているのかぁ!!」
「・・・・しかし・・・逃げられては・・・」
そう言った船員の手には、麻酔銃ではなく、
猟銃が握られていた。
「もうよい!!」
部下らしき者の言明に、男は一言だけ言って、再び沖を見た。
もう、ライトは何も捕らえていない。
「・・・・・・見失ったか・・・・くそっ!!」
男はそう言うと、船のパイプを蹴った。
沖を睨み付けながら。
そこには、まだ何かを探している光と、暗闇しか存在していなかった。
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